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2026/04/07
スプラウツ
言葉にならない声と向き合うということ ― 場面緘黙症の子どもと関わった経験から見えた課題と希望 ―

スプラウツでは、これまで多様な背景を持つ子どもたちと向き合ってきました。
その中で、今でも深く心に残っているケースがあります。

それは、場面緘黙症の子どもとの関わりです。

家庭では普通に会話ができるにもかかわらず、特定の場面、特に学校や外部の環境において、言葉を発することができなくなる状態。
その子はまさに、教室に入った瞬間から「声」を失ってしまう子でした。

私はこれまで多くの生徒を見てきましたが、「言葉が出ない」という状況は、想像以上に難しく、そして深いものでした。


「話さない」のではなく、「話せない」という現実

最初に強く感じたのは、
これは決して「性格の問題」ではないということです。

多くの人が誤解しがちですが、場面緘黙は「恥ずかしがり屋」や「内向的」という単純な話ではありません。

むしろ、専門的には不安症の一種とされており、
本人の意思とは関係なく、言葉が出なくなる状態です。

例えば、ある心理学の研究では、
場面緘黙の子どもは「極度の社会不安」を感じたとき、
身体が“凍りつくような反応”を示すとされています。

つまり、
「話さない」のではなく、
**「話そうとしても身体が動かない」**のです。

この前提を理解していなければ、
指導は必ずどこかでズレてしまいます。


私の失敗と、届かなかった距離

その子との関わりは、正直に言えば、うまくいきませんでした。

私は「待つこと」「安心できる環境をつくること」を意識しながら接しました。
無理に話させることはせず、視線や仕草、表情から意思を読み取ろうとしました。

しかし、結果として最後まで意思の疎通が取れず、
その子は退塾することになりました。

この経験は、教育者として非常に重く、そして悔しいものでした。

なぜ、届かなかったのか。
何が足りなかったのか。

その問いは、今でも私の中に残り続けています。


振り返って見えた「構造的な課題」

時間をかけて振り返る中で、いくつかの課題が明確になってきました。

①「個人の努力」で解決しようとしていたこと

私は当初、「教室の中での関係性」をどう築くかに集中していました。
しかし、場面緘黙は環境全体の問題です。

教室だけで改善するものではなく、
家庭、学校、支援者すべてが連携しなければ、変化は起きにくい。

これは大きな見落としでした。


②専門的アプローチの不足

後から学び直す中で、
場面緘黙に対しては以下のような支援が重要だと知りました。

  • 段階的曝露(スモールステップでの発話練習)
  • 刺激フェーディング(安心できる人から徐々に環境を広げる)
  • 認知行動療法的アプローチ

私はこれらを体系的に実施できていませんでした。

「理解しているつもり」と「実践できている」は、全く違う。
その現実を痛感しました。


③「時間軸」の認識の甘さ

場面緘黙の改善は、数週間や数ヶ月で結果が出るものではありません。

場合によっては、年単位の支援が必要です。

しかし当時の私は、どこかで
「もう少しすれば変わるはずだ」と期待していました。

その期待が、結果として適切な戦略設計を遅らせていた可能性があります。


本来、家庭に求めるべきだったこと

この経験から強く感じたのは、
家庭との連携の重要性です。

もし今、同じケースに向き合うなら、
私は以下の点を明確にお願いすると思います。


①「家庭内での状態」の詳細共有

  • 家ではどの程度話せるのか
  • 家族以外ではどうか
  • 過去に話せた場面はあったか

これらの情報は、支援設計の出発点になります。


②専門機関との連携

場面緘黙は教育の問題であると同時に、
医療・心理の領域でもあります。

そのため、

  • 臨床心理士
  • 児童精神科
  • 発達支援センター

などとの連携は不可欠です。

塾だけで抱え込むべきではありません。


③「結果を急がない」という合意

最も重要なのはここです。

保護者の方が「早く話せるようになってほしい」と思うのは当然です。
しかし、その焦りが無意識のプレッシャーとなり、
子どもをさらに追い込むことがあります。

だからこそ、
「長期戦である」という認識の共有が必要です。


教育とは「届かない経験」から学ぶもの

このケースは、成功体験ではありません。
むしろ、私にとっては明確な「失敗」です。

しかし、教育において本当に重要なのは、
成功だけではなく、
届かなかった経験をどう意味づけるかだと思います。

あの時の私は、確かに力不足でした。

けれど、その経験があったからこそ、
今はより深く「支援とは何か」を考えるようになりました。


それでも、希望はある

場面緘黙は、適切な支援によって改善するケースが多く報告されています。

例えば、海外の研究では、
行動療法的アプローチによって発話が増加した例が多数示されています。

また、日本国内でも、
学校と家庭、専門家が連携した支援により、
徐々に話せる場面が広がっていった事例が報告されています。

重要なのは、

  • 無理をさせないこと
  • しかし、放置もしないこと
  • 小さな一歩を積み重ねること

このバランスです。


最後に

言葉が出ない子どもは、
決して「何も考えていない」わけではありません。

むしろその内側には、
多くの思いや葛藤が存在しています。

ただ、それを外に出す手段が、
今は「言葉」という形を取れないだけなのです。

教育とは、その見えない内側に寄り添い、
「表現できる形」を一緒に探していく営みだと私は考えています。

あの時、もっとできたことがあったはずです。

その後悔を、
次に出会う子どもたちへの責任として、
これからの指導に活かしていきたいと思います。


スプラウツとしてのこれからの方針

今後、同様のケースに対しては、

  • 初期段階での専門家連携
  • 家庭との具体的な役割分担の明確化
  • 長期支援を前提とした設計
  • 非言語コミュニケーションの積極活用

を軸に、より慎重かつ戦略的に支援を行っていきます。


言葉にならない声を、どう受け取るか。

それは、教育者にとって
最も難しく、そして最も本質的な問いの一つです。

この問いに向き合い続けること自体が、
私たちの使命なのかもしれません。



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